感傷マドンナ

 




『もしもし』
「鷹也さん?」
『そー。俺』
「どうしたんですか」
『悪い。こんな時間に』
「かまいませんけど」
『星野、俺さ、』
「はい」
『ソウと、ちゃんとつき合うことにした』
「―――そう、ですか・・・。由良さん、鷹也さんのこと好きだって・・・?」
『ああ。ようやく、振り向いてもらえた感じ』
「良かった・・・ですね」
『ああ。まだちょっと信じられないけどな』
「鷹也さん、声がトロけてますけど」
『え』
「アハハ」
『―――星野、あのさ』
「解かってます」
『―――』
「解かってました。俺は第三者でしたから、鷹也さんの気持ちも、由良さんの本心も、よく見えてました」
『ソウの本心って・・・』
「それは、これからゆっくり自分で確かめて下さい」
『厳しくないソレ?』
「当然です」
『まあ、でも、お前には、いっつもグチ聞いてもらって、助けられた。感謝してる』
「俺が欲しいのは感謝じゃないです」
『―――』
「すみません。もう言いません」
『星野―――ごめん』
「―――甘んじて、受け取ります。でも最後にお願いがあります」
『ん。何?』
「俺の目を見て、由良さんとのこと報告して下さい。電話だけじゃ、俺も諦めきれない」
『―――解かった。会いに行く時、また電話する』
「はい。じゃ、おやすみなさい」
『ああ。遅くに悪かった。じゃーな』
冥守は通話の切れた携帯電話を握りしめたまま、枕に顔を埋めた。


ずっと好きな人がいて。
その人は、『ほしのめがみ』なんて、洒落みたいな名前を気に入ってくれていた。
初めてセックスした時、「お前の親って、相当ロマンティックだな」と耳元に囁いて、そのまま激しく愛撫してくれた彼が好きだった。
今も勿論好きだけど。
でも、彼にはもう二度と抱かれることはない。
多分、こちらが誘っても、きっと彼は乗ってくれない。
ずっと前から欲しいと言っていた人を彼は手に入れたから。
遅かれ早かれそうなることは解かっていたけれど、でも、やっぱり、苦しくて、悔しくて。
自分が本気で彼に恋をしていたことを知る。

ただ、彼の相手があの人で良かったと思う。
好きな人の恋人。
由良瀧介。
彼には嫉妬もしたけれど、しばらく受動的な恋愛をしてきた自分にとって、ちょっと特別な人になった。
“抱いてみたい”と感じるくらいには。
彼はとても綺麗な人で、同時にとても聡明で、ひとつ年上とは思えないほど落ち着いている。
同じ学部連中からは、教授も含め、一様に「老成している」と印象づけられている。
彼が感情を波立たせたところなど、自分とて一度として目撃したことがない。
悪く言えば、感情に乏しいのかもしれないが、決して感情が無いわけではないのだ。
具体的には言い表せないけれど。
自分は確かにそれを知っている。
そして、彼のそういうひどく鈍感なところとミステリアスなところが気になっている。
だから。
他でもない、そんな感情を抱く彼が相手だったからこそ、自分は恋を失っても、取り乱さずにいられたのかもしれない。

失った恋をやわらげる恋なんてあるのだろうか。
やっぱりそれは真新しい恋だったりするのだろうか。
決して彼に恋しているわけではないと思う。
ただ、もっと彼のことが知りたいとは思う。


掌の温度で温くなってしまった携帯電話をベッドサイドに置き、冥守はゆっくりと眠りについた。

i wish upon a star...

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UPDATE 02112003 (C)ARIKA TATENO